シンポジウム抄録 1
「諸外国の矯正歯科専門医制度の実情と日本の課題」
星 隆夫
現在の日本で質の高い歯科矯正医療に簡単にアクセスできるであろうか?
答えは否である。質の高い矯正治療は存在するが、その周りにはそれを埋もれさせる様々な歯科矯正治療が存在することも事実である。そもそも、質の高い歯科矯正治療とは何かというコンセンサスも十分に得られていないのではないだろうか。
ヨーロッパのいくつかの国、アメリカ合衆国では、歯科矯正医療の質を担保するためのシステムを構築している。その仕組みは歯科矯正医療を取り巻く状況の差により少しずつ異なる。いくつかのヨーロッパの国では、全てではないが児童生徒の矯正治療のコストを国庫が負担する都合上、国の機関またはそれに準じる機関が歯科矯正医療を担う矯正専門医を認定している。アメリカ合衆国では歯科矯正治療は公的な保険でカバーはされていないが歯科矯正治療の質はADA,
AAO, ABOによる矯正医の教育、認定機構によって担保されている。ヨーロッパのいくつかの国およびアメリカでの矯正専門医の教育システムは歯科医師としてのライセンスを取得後2〜3年の歯科矯正治療の専門教育を国もしくはそれに準ずる機構に認定されたCourseにおいてフルタイムで受けた後、ケースプレゼンテーションと口頭試問からなる矯正専門医の認定試験に合格すると晴れて矯正専門医となれるシステムが主な様である。
このようなシステムの構築を行ってこなかったことが日本の現状を生み出した原因ではないだろうか。そうであれば、今、我々が行わなければいけないことは明白である。
公的な制度に立脚した歯科矯正臨床の技量を量る矯正専門医の認定システムと、大学を含めて質の高い医療が提供できる矯正専門医を育てることができる教育システムを作り上げることが急務である。さらには構築された両システムを厳正に運用していくことにより、矯正専門医ではない歯科医師が見ても納得のいく「質の高い矯正医療のあるべき姿」すなわちコンセンサスを作り上げていくことが必要である。
星 隆夫氏
新潟大学大学院医歯学総合研究科歯科矯正学講座助手
1989年新潟大学歯学部卒. JIO会員